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2013年7月21日日曜日

初等まとめ(2) ~社会科・知識の構造図~

最近は、小学校の授業づくりを初等コースの方々と行っています。普段中・高の授業をするときとは異なった新鮮さを味わっています。メンバーも熱心な方が集まっており、とても充実しています。特に児童の視点に立つという点が初等の方は上手だと思うので、自分も彼らから多くを学びつつ、逆に中等教員養成課程で学んだ自分も、出来る限り提供できるよう頑張りたいと思います。


授業作りの話し合いの中で、特に難しいと感じたのが社会科でした。これは、自分の知識や経験不足でもあるのですが、社会の授業はひたすら暗記というイメージが強かったためでもあります。しかし、社会科の指導要領には「暗記科目」のような文言は全く含まれていません。そこで、『社会科学力をつくる“知識の構造図”-“何が本質か”が見えてくる教材研究のヒント-』を読んで学んだことを、いかに記します。特に、英語科の方は「この発想は英語科では使えないか」という視点で読んで頂けたら幸いですし、自分からも一つの型として、最後に提案したいと思います。

 ※本記事における「社会科」は特に断りのない限り、「小学校社会科」を意味します。




■ 「社会科」とはどのような科目か


栗田哲也『数学による思考のレッスン』でも紹介されている通り、ある概念を理解するのに類似概念との差異を考えることは重要です。まずは「社会」を理解するために、同様に小学校で教えられる科目である「算数」や「国語」との比較を行います。

国語科や算数かは文字や数字、記号などを扱うことから用具系の教科と言われえている。これに対して、社会科は従来から内容教科だと言われてきた。(p.13)

例えば、国語科では「言語についての知識・理解・技能」や「話す・聞く能力」などの言葉が示すように、言葉という道具を用いて言語活動を行います。おそらく中等教育の英語科も、同様に用具系の教科と言えるでしょう。また、算数も「文字」や「記号」を習いますが、これらはあくまで諸問題を解決するための「手段」になります。用具系の教科では手段を児童に身につけさせるのに対し、社会科は内容そのものの習得を目指しています。したがって、その内容が何か分からなければ教えることも難しいはずであり、英語科とは本質的に異なっているとも言えます。また北氏は以下のように社会科を定義しています。

社会科は、おとなが営んでいる社会を対象に、「これまで」と「いま」の社会のことを学び、「これから」の社会を考えさせる教科である。(p.14)

「これまで」に関して考察する場合は歴史的視点を活用し、「いま」を考えるなら地理、経済、政治などの視点を使って、社会を学びます。そうすることで、社会的な見方(歴史的見方、地理的見方、政治的見方…)そのものの獲得に繋がり、「これから」の社会に関して、課題の解決、児童自身の意見表明などの学習へとつなげられます。


■ 調べ学習の落とし穴


社会科の学習指導要領には、「調べ」「考え」「表現する」という言葉がよく用いられます。PISAを契機に提唱された新しい学力観の一つである「思考力・判断力・表現力」に拠るのでしょう。現場では、調べ学習を通してこの3要素を育成する動きが強いようですが、北氏は以下のように警鐘を鳴らしています。

「自転車で好きなところに自由に行きなさい」と言ってみたところで、自転車に安全に乗ることができなければ、自転車を楽しむことはできない。事前に安全な乗り方や交通ルールを指導しておかなければならない。[...]調べ学習は確かに子どもの学習態度を主体的にさせるという面がある。しかしそこでは子ども一人一人の主体性を尊重するあまり、どの子どもにも習得させなければならない知識の抜け落ちが生じる心配がある。すでに扱い知っているはずのことが身についていないということは、多くの教師が体験している。このことは、問題解決的な学習や調べ学習の落とし穴であるといえる。(p.20)

自転車に乗るために交通ルールや乗り方を学ぶ必要があるのと同様に、調べ学習の前には調べ学習のやり方・基礎的な知識も必要になります。この前段階を飛ばしている場合は、基礎的な知識をクラス全員が共有できずに、学力低下に陥る危険もある。実際に本書でも、日本の面積・総人口・首都を知らない小学生が多いという問題が紹介されている(p.23)。見栄えの良い調べ学習を優先して、基礎知識を飛ばしてしまうという事実は、言語活動を重視するあまりパターンプラクティスや文法の軽視をする他教科を彷彿させる気がします。

■ 社会科で習得させる知識の分類


上では、知識の重要性が示されたが、その知識もいくつかに分類される。例えば、学習内容に関する知識と学習方法に関する知識という二項対立の構図を考える。社会の事象について知ることも重要ではあるが、生涯学習する態度を育成しようとしている今日、「どうやって学ぶか」という方法を知らせることも必要であろう。先の2つは、どちらも同じように大切である。

さらに内容に関する知識をさらに3段階に分けると「用語や語句」、「具体的な知識」、「概念的な知識」に分けられる。これらが知識の構造図の骨組みにもなります。

用語や語句とは、地図記号や県庁所在地のように、習得していないと「社会科の学習のなかで資料を調べても理解が深まらな(p.88)」かったり、「日常生活において支障をきたす(同頁)」知識を指します。誤解を承知で言えば、暗記させるべき用語がここに入ると思います。(従って、受験生が暗記カードでせっせと覚えているものは、全て「用語や語句」に入り、本来社会科で学ぶべき知識の一部となります。)用語や語句は、以下の具体的な知識、概念的な知識を学ぶのに必要な条件です。

具体的な知識は「調べて発見させる具体的な知識」(p.84)と言うことができる。例えば、「学校の北側には田んぼがある」や「学校の西側には川がある」は、調べることにより分かる知識です。これらは具体的であるが故、普遍性がありません。現にA学校の北側に田んぼがあるからといって、全ての学校の北側に田んぼがあるわけではありません。「頼朝は御恩と奉公の関係を用いた」も、室町時代には封建体制は倒れており、全時代に共通するものとは言えません。ところが、普遍的な知識を得るためには、小学生にとっては通るべき道なのです。

抽象的な知識は「社会的事象として目に見える状態のものではなく、目には見えないものである。調べたことを基に「どうしてだろうか」とか「どういう意味や役割をもっているのだろうか」などと考えることによって導き出される(p.76)。」例えば、先ほどの「
学校の北に田んぼ」「西に川」という具体的な知識をつなげれば、「田んぼの近くに川がある」という一段階昇華された知識になります。では、なぜ田んぼの近くに川があるのかと言うと、川から水を引くことで田んぼで稲を作ることができるからです。また、田んぼはなぜ川から水を引く必要があるかというと、生計のためにもできるだけ多くの米を収穫し出荷する役割を担っているからです。ここまでくると、ただ調べるだけでは分からない「抽象的な」知識になります。現に田んぼや川を見てるだけでは全ての児童がここまで考え付くとは限りません。(だからこそ、初めて協同学習が必要なのでしょう。)

バラバラに書いてしまいましたが、これを以下のピラミッドに直してみると考えやすいかと思います。

右の矢印にも示した通り、教師が教えるべき箇所と児童が発見すべき箇所を分けると、議論がしやすいように感じます。「都道府県の名前」や「地図記号の形」などは児童に考えて発見させるよりも、教師が提示する方が効率的だからです。(もちろん、地図記号の形を予想させるといった学習活動はありえますが。)


■ 知識の構造図


肝心の知識の構造図については、あまり述べてしまうと本書の内容を大幅に引用してしまうことになってしまうので控えます。簡潔に述べると、授業で学ばせるべき知識を上の3分類にかけて、その関係性を示したものとなります。
先ほどの例を用いて、一つ知識の構造図を作成してみたいと思います。

手順は以下の通りです。(p.80~90)

①小単元名と指導時数の設定
②小単元の目標の設定(学習指導要領と照らし合わせる)
③評価規準の設定
④教材観、児童観、指導観
⑤中心概念(概念的知識)の抽出
⑥中心概念を支える知識(具体的知識)を整理する
⑦具体的知識の順序性を考える
⑧具体的知識に必要な語句・用語レベルの知識をリストにする
⑨完成~!

このような知識の構造図を利用した取り組みは池野・金・福井(2012)「地域教材と知識の構造図を用いた社会科授業づくり. ― 小学校における社会科授業構成研究(1) 」があります。また、本書には多くの実例が掲載されているため、是非一度手にとって読んでみてください。


社会科学力をつくる“知識の構造図”―“何が本質か”が見えてくる教材研究のヒント
社会科学力をつくる“知識の構造図”―“何が本質か”が見えてくる教材研究のヒント北 俊夫

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■ 「知識の構造図」の英語科への応用


ここまで読んでいただき、英語科の方はどのように感じられましたでしょうか。
冒頭で述べたとおり技能重視の英語科と内容重視の社会科が根本的に異なるわけですが、私は知識の構造図もどきのようなものを英語科で活用する余地は十分に残されているのではないかと思います。

例えば、英語科では言語材料(文法や語彙など)を習い、それらを活用して言語活動(コミュニケーション活動)を行うという流れがあります。上で示唆した通り、見栄えの良いコミュニケーション活動が重視されすぎて、言語材料がおろそかになる可能性も否定できません。そこで、まずは何を教える必要があるのか、内容面で整理するためにも以下のような知識の構造図が活用できます。(もっとも、英語科の場合は技能面も強いので、「知識・技能の構造図」と呼ぶほうが適切かもしれません。)

では、中学二年生の不定詞の単元で、一度「知識・技能の構造図」を作ってみましょう。

(例)
①単元「自分の将来の夢に関するスピーチをしよう」
 時間:5時間
②目標
 ・スピーチの際、聞き手とアイコンタクトを取る。
 ・自分の将来の夢に関するスピーチをする。
 ・相手が話すスピーチの要点をメモを取りながら理解する。
 ・to不定詞の3用法の違いを理解する。
③評価規準
 ・スピーチの際、聞き手とアイコンタクトを取っている。
 ・自分の将来の夢に関するスピーチをすることができる。
 ・相手が話すスピーチの要点をメモを取りながら聞くことができる。
 ・to不定詞の3用法の違いを理解している。
④省略
⑤最終目標:3分程度の将来の夢についてのスピーチを行う。
⑥最終目標を達成するために必要な内容・技能
 ・不定詞を用いた文を作ることができる。
 ・スピーチに必要な表現を知る。
 ・スピーチを聞きながらメモを取って理解する。
 ・原稿を作成する。
 ・練習を行う。
⑦省略
⑧⑥を達成するために必要な知識・用語
 ・不定詞の名詞的用法/副詞的用法/形容詞的用法
 ・toの後には動詞の原形がくる
 ・イントロ・ボディ・コンクリュージョン
 ・Today, I'd like to talk about my dream.
 ・I want to be a ~.
 ・My dream is to be a ~.(以下略)

⑨知識・技能の構造図




このような作業は、指導案作成の際にほとんどの先生がされていることと思います。しかし、実習生として昨年作業をしていると、単元全体として本時は何をしなければならないか、目標は決まったが具体的にはどこまで教えるべきか、という点の議論が曖昧なことも多かったです。だからこそ、具体的な「用語・語句」まで書き出し、身につけさせるべき知識・技能の構造化を図ることは、英語科にも必要な作業のように思えました。

英語科は確かに技能教科としての側面が強いかもしれませんが、このような内容教科から学ぶことも多いのではないでしょうか。




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